こんにちは。
夏が終わりそれなりに涼しくなりました。今年の夏休みは、みなさんにとってどんなものだったでしょうか。
教室では、講師が生徒と一緒に夏の自由研究を行いました。
テーマは「振り子時計を作ろう」です。
振り子時計を作ろう
小学校高学年の理科で学習する振り子の最も重要な性質として「振り子の等時性」が挙げられます。これはピサの寺院でガリレオ・ガリレイが発見したもので、同じ長さの振り子はおもりの重さや振れ幅に関わらず一定であるという性質を指します。
(※厳密には角速度を重力加速度と振り子の長さで近似するときに振れ角が十分小さい(約15°以下)である前提をおきます)
この性質を利用しているものといえば、振り子時計を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。近年はスマホの画面に時刻が表示されますし、アナログ時計もデジタル時計も振り子なんて付いていないので、実物を目にする機会は少ないかもしれません。
しかしながら、今日主流となっているクオーツ時計が発明されたのは今からおよそ100年前なのに対して、振り子時計は17世紀には発明されていました。したがって時計の歴史において、振り子時計は現代のクオーツ時計よりもはるかに長い間利用されてきたのです。(日時計や水時計はさらに何千年も前から使われてきましたが、実用的ではないので考慮しないものとします。)
では振り子時計はどのように時間を計っているのでしょうか。実際に動く振り子時計を製作しながら調べてみました。
下の図面が今回制作した振り子時計の主な構造です。 今回制作した振り子時計の主な構造
【図1】
1. まず1番下に振り子がついています。およそ25cmなので周期は1秒になります。
2. この振り子の支点には脱進機(エスケープメント)ツメのような機構があり、振り子と一緒に一定周期で揺れ動きます。
3. この斜めに歯がついた歯車をガンギ車といいます。脱進機のツメとガンギ車の歯が噛み合うことで、脱進機がガンギ車の歯を止めたり、逆にガンギ車の歯が脱進機を押して振り子の振れを維持したりする働きがあります。これによりガンギ車の歯は1秒(1周期)で1枚ずつ進んでいきます。
4. 歯車は全部で6つあり、全て6本のピニオン(内側小さい歯のこと)を持ちます。1枚目の歯車は60枚の歯をもちガンギ車と噛み合っているので、60秒で1周します。つまり秒針に対応する歯車です。
5. 1枚目の歯車のピニオンに36枚の2枚目の歯車が噛み合い、さらにそのピニオンに60枚の3枚目の歯車が組み合わさることで、3枚目の歯車は1周60分まで減速します。すなわち、3枚目の歯車は長針(分針)に対応します。
6. 3枚目の歯車のピニオンから同様に、36枚の4枚目の歯車を通して24枚歯の5枚目の歯車を組み合わせると24時間で1周するようになります。一般的な時計の短針の半分の速さで回転します。
7. 5枚目の歯車のピニオンに42枚の6枚目の歯車を組み合わせると、この歯車は7日(168時間)で1周します。すなわち6枚目の歯車は曜日を示すことができるのです。
以上が振り子時計の主な構成になります。
教室での自由研究や工作のレッスンでは、意図的にできるだけ身近な材料を使うようにしています。もちろん、市販のキットやパーツを利用すればより手軽に作ることができるかもしれませんが、工夫して一から手を動かしてパーツを作れば、先人たちの発明のプロセスをより実感できるでしょう。今回の歯車は、木皿の周囲にアイスの棒を1本1本切って貼り付けることで作製しました。ガンギ車や脱進機も木材を切り出したり削ったりして作っています。
【図2】
![](https://projuku.jp/wp-content/uploads/2024/09/2b530e80c7d0de90885e285c5d798063-e1728040025329.jpg)
図面をもとに木材を切り出す
【図3】
![](https://projuku.jp/wp-content/uploads/2024/09/c8856789ec11ab8b1013037cef6929f9-300x226.jpg)
アイスの棒を歯車にしていく
さて歯車と振り子だけ取り付けても歯車は回りません。
振り子はあくまでペースメーカーでしかなく、回転のパワーを生み出すものではないからです。歯車を回転させるには、噛み合っているいずれかの歯車に回転方向の荷重をかける必要があります。作品では1番目の歯車の軸に糸巻きを付け、糸の先におもり(図1の8.)をぶら下げることで荷重をかけています。稼働するとおもりはスルスルと降りていき、地面に到達すると時計は止まってしまいます。したがって振り子時計を含む機械式時計は定期的に巻き上げという作業が必要になるわけです。
【図4】
![](https://projuku.jp/wp-content/uploads/2024/09/3a4f695a458cb0ac0aceaa2eb13ac2dd-e1728027553994.jpg)
横から見ると…
時計の連続稼働時間(巻き上げてからおもりが地面に付いてしまうまでの時間)はなるべく長いほうが便利です。これを伸ばすにはどうしたらいいでしょうか。
1つ目の解決策は単純におもりの降りる長さを長くすることですが、その分時計本体が縦に大きくなってしまうので限界があります。
2つ目は糸巻きの直径を細くすることで1周回る間に糸が出る長さを短くできますが、歯車の軸よりも細くすることはできないので、これにも限界があります。
3つ目の解決策としては、より回転速度の遅い歯車に糸巻きを付けて荷重をかけるということです。1回転で糸が出る長さは糸巻きの直径によって定まるため、回転速度を遅くすれば必然的におもりが下に付くまでの時間も長くなります。例えば3番目の歯車は1時間で1回転しますが、5番目の歯車は1日で1回転するため24倍長持ちします。
しかしながら3番目の解決策でも大きな問題点があります。回転速度が遅い歯車に荷重をかけるとガンギ車にかかる荷重が小さくなってしまうのです。(詳しくは、「てこ」や「輪軸」の単元で扱うモーメントについて考えてみましょう)
具体的には、例えば1.5kgのおもりを3番目の歯車に取り付けた場合、2番目の歯車にかかる荷重は約94gに、1番目の歯車にかかる荷重は約16gに、最終的にガンギ車にかかる荷重は約1.6gにまで縮小されます。すなわち、これよりも回転運動に対してかかる摩擦などの抵抗が大きくなってしまうと歯車は回らなくなってしまいます。したがって機械的な抵抗を最小限に抑えるために設計を工夫したり、ある程度工作の精度も要求されるでしょう。
このように、振り子時計ひとつ取っても考えるべき科学的・工学的要素はたくさんあります。現代ほど便利ではなかった時代に、先人たちは試行錯誤を重ねて時を数えられるようになったわけですね。
今回の振り子時計以外にも先人たちが作り上げてきたテクノロジーの歴史があり、その上に現代の便利な生活が成り立っていると考えれば、例え現在はなかなか使われることのない技術や機械であっても、そのメカニズムを研究してみることは意義のあることと言えるのではないでしょうか。
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