こんにちは。 暑かった夏が終わりやっと涼しくなりましたね。今年の夏休みは、みなさんにとってどんなものだったでしょうか。
教室では、講師が生徒と一緒に夏の自由研究を行いました。 テーマは「硬式ボールを作ろう」です。
野球で使われるボールは大きく2種類、硬式ボールと軟式ボールに分けられます。これらのボールはどういった材料をどのようにして作られているのでしょうか。
軟式ボールは中空のゴム球であり、比較的シンプルな構造をしています。製造工場で柔らかくした天然ゴムを型に当てはめてボール型に成形するものです。ゴムの可塑・硬化剤や型など作るには製造工場の設備が必要となる割に構造自体は単純です。
一方の硬式ボールは図のように中芯から外側に向かって複数の層からなっていることが分かります。コルク芯と2層のゴム殻からなる中芯に、毛糸と綿糸を何重にも巻きつけ、最後に革で包まれています。今回はこの硬式ボールの構造を手作業で再現して、オリジナルのボールを自作してみました。
まずは中芯を用意します。作業時間短縮と簡易化のために、本来コルク芯と2層のゴム殻となっている中芯は単一のゴム球としました。コルク芯にゴム殻が被さっている構造はボールの重心を安定させるための仕組みとされていますが、コルク芯をゴムで覆うのが困難なので、今回の製作では割愛しました。ちなみにゴム球は強度が高く反発力の大きいクロロプレンゴムを使用しました。
続いて羊毛をゴム球に巻いていきます。羊毛は3種類の太さのものを太いものから巻いていきます。重心がなるべく中心にくるように、また硬く密度の高いものになるよう、様々な方向からしっかり締め付けて巻いていきます。巻いた糸同士の間に空隙があると密度が小さくなり外力が吸収されるので、反発力の低いボールになってしまいます。

太い毛糸の次は中細の毛糸、中細の毛糸の次は極細の毛糸を巻いていきます。とくに中細の毛糸は1玉以上巻き付けるので、巻き上がるころにはかなり大きく重たいボールになります。最後に毛糸よりも丈夫な綿糸(一般的な縫い糸)を全体にきつく巻き付けてると、丈夫で硬いボールが出来上がります。巻き上がった球に接着剤を塗布して糸が緩んだりほどけたりするのを防ぎます。

続いて、一番外側になる革(牛革)を切り出します。2枚のひょうたんのような形の革を互い違いに縫い合わせることで、野球ボール特有の形状の縫い目に仕上がります。切り出した革の外周に3〜5ミリ程度の間隔で穴を開けていきます。穴は縫い糸を通す目印になり、縫い目の数と同じく1枚につき108開ける必要があるので、1つ1つしっかりと根気強く開けていきます。穴の間隔は全周等間隔ではなく、丸くなっている部分の両端のほうでは比較的狭くなっており、逆にくびれている中央付近では広くなっています。この違いは図のように、カーブの内側になる部分と外側になる部分で経路長が異なることが原因です。2枚の革の境目にできる縫い目(縫い穴)の位置は常に一致するので、より経路の長い外側になる部分は間隔が広くなり、経路の短い内側になるほうは間隔が狭くなるということです。きれいな縫い目にするにはこの左右の穴の位置が一致するように穴あけ・貼り合わせる必要があります。

切り出した革を球に貼り付けたら最後に縫い合わせをします。縫い糸は細い糸を何本も撚り合わせた太くて丈夫なもので、ボールに打撃などの強い力が加わっても切れない専用の糸を使用します。縫い合わせるときは2本の糸と2本の針を同時に通して、靴ひもを通す要領で互い違いに縫っていきます。ここでもしっかりと引き締めながら縫っていきます。一周縫いきったら2本の糸を結び合わせて糸を切り、接着剤をつけて結び目を中に押し込んだら完成です!

こうしてみると硬式ボールは多くの工程を経て作られていることが分かりますね。ちなみにオートメーション化が進んだ現代のボール工場でも、糸を巻き付ける工程や革を切り出して貼る工程などは機械で自動化されているものの、最後に革を縫い合わせる工程は職人が手作業で1個1個仕上げているそうです。また各工程や完成後に大きさや重さ、反発度合いなどを厳密に測定し、ボールごとのばらつきが出ないよう製造管理されています。このように野球ボール1つとっても、その製造には様々な工夫や技術が用いられているのです。